エヴァでません。
ネルフって何?セカンドインパクトって何?そんなの知らないって世界です。
あ、っと、学園エヴァとも設定が違いますよ。
「あなたの心に…」
Act.1 帰国子女の憂鬱
私,惣流・アスカ・ラングレー。
ドイツからの帰国子女よ。
といっても、7歳までは日本にいたし,いずれ日本に戻ることもわかっていたから,
日本語は大丈夫。その上,ドイツ語と英語も完璧ね。
ちょっと危なっかしいのが、漢字くらいかな。
今日は中学校への編入初日。
予想はしてたけど,男どもの嫌らしい目が紹介を受ける私に集中してるわ。
金髪に碧眼,その上プロポーションも同世代の女子より圧倒的に上となれば、
自分で言うのもなんだけど、まあ、仕方がないか。
でも、イヤ。正直言って男には興味が無い。ちょっと、待ったぁっ!
誤解の無いように言っておくけど,女にも興味は無いわよ!
ただねぇ…、男どもに騒がれると,自然と女子に嫌われちゃうから困るのよね。
同性には嫌われたくないから、どうしようかな…。
告白やラブレターは即効で断る。
それは基本路線だけど…。
どうやっても恨みは買うでしょうね。
あ〜あ、あっちならチビスケだから、こんな悩み抱かなくてもよかったのに…。
そうね…、まずはお友達を作って…。
こんなことを私は教壇で突っ立ちながら考えていた。
甘かった…。
自己紹介を控え目にして,1時間目の授業を受けたまでは良かったの。
私は窓際から二列目の席だった。
私の席からは校庭と運動場,そして住宅街の町並みが見えたわ。
そして、その景観を邪魔する男子が約1名、私と窓の間にいる。
ホント、冴えないヤツなのよ。
ボッとしてて、どこ見てんだかよくわからないヤツ。
顔は不細工じゃないけど、男らしさには欠けるわね。
ヒョロッとした感じだし,いかにも東洋人の少年って感じ。
ま、こんなヤツを観察していても仕方が無いわ。
授業は国語。喋ってることはわかるけど,教科書も黒板の文字も勘でしかわかんない。
でも初日にいきなり当ててなんかこないでしょ…,って何よいきなり!
「では、惣流さん。ここから音読してもらいましょうか」
な、何よ!こんなの酷いじゃない。
生徒ならともかく,教師なら帰国子女が漢字が駄目なくらいわかってるでしょう!
はは〜ん、イジメってやつ?陰湿なことするのね。
私は早々に揉め事は起こしたくなかったので,素直に席から立った。
「すみません。漢字がよくわからないので、読めないんですが」
腹立ちを無理矢理抑えこんで,私は丁寧に詫びた。
「あら、ごめんなさい。わかる範囲でも良いわよ。どこまで読めるかわからないとわたしも困るから」
眼鏡をかけたオールドミスっぽい教師が白々しく言う。
私はあまりの屈辱に顔面が蒼白になったわ。
漢字を所々抜かして読めっていうの?
その時,教壇に近いところに座っていた金髪の男子が手を上げた。
「なぁに、ローレンツくん」
あ、アイツも帰国子女なんだ。アングロサクソン、いやアーリア人系…?
「先生,それは可哀相です」
あ、かばってくれ…
「僕みたいにあっちにいる間、日本語をしっかり勉強していたわけじゃないみたいですから」
ローレンツとやらは、ふてぶてしく言うと私のほうを見てニヤリと笑った。
「キールくん、やさし〜い」
そんな声が小さく聞こえてきた。
何がやさしいのよ!自慢してるだけじゃない!
立ったままの私は,もう我慢の限界を超えてしまったの。
「ある、のことでございます。お、さまは、の、のふちを、りでぶらぶらお、きになっていらっしゃいました」
私は漢字を飛ばして音読してやったの。ふん!馬鹿にして!
教室がし〜んと静まり返った。
溜飲を下げた思いの私が,自分の間違いに気付いたのはすぐだったわ。
あのローレンツとかいうやつは、クラスのアイドルだったみたい。
クラス中の女の冷たい視線が私に突き刺さっている。
しまった!
女教師も私を睨んでいる。
座っていいと言われてないから,私は立ったまま。
ローレンツはニヤニヤ笑いながら,周りを見ている。
女生徒は憎しみのこもった眼差しを向け,男子は目を逸らしている。
どうやら男子はあのローレンツに頭が上がらないみたいね。
あ〜あ、もぉ〜最低!
少しは楽しみにしてたのに,バラ色どころか暗黒の学生生活なの?
「あの〜、質問いいですかぁ?」
私の隣りから,間の抜けた声がした。あの冴えないヤツだ。
「はい、碇君。何?」
イカリ君とやらはのろのろと立って,教師をぼぅっと見た。
「この『蜘蛛の糸』なんですが…」
彼は翻訳前の題材との違いについて、力説するわけでも無く自分の意見を言い、教師の解説を求めた。
多分…、助けてくれた…のかな?
よくわからない。
あまりにマイペースだから、本当に助け舟を出してくれたのかはっきりしないの。
でも彼の発言で教室の重い空気が和らいだのは確かだわ。
「惣流さん、座ったら…?」
私の後ろから小さな声がした。
少し振り向くと,お下げでソバカス混じりの少女がぎこちない笑みを浮かべてくれていたわ。
よかった…。みんながみんなローレンツのシンパってわけじゃないのね。
私は静かに席についたが,教師は何も言わなかった。
彼が提示した質問が結構高度な内容だったみたい。
それに答えるのが精一杯で,私への嫌味は続けられなかったの。
ただ、前からこっちを睨んでいるローレンツの怒りに溢れた視線が気になったわ。
休み時間。
私は後ろに座っていた娘に手を引っ張られて,廊下に出たの。
その娘は教室から離れた場所に来るまで,手を離してくれなかった。
「ごめんなさい。私,洞木ヒカリ。こんなとこまで連れて来て悪かったわ。でも…」
「ううん、こっちこそ、助かった。あのまま教室に居たら何されてるか…」
ホント,彼女のおかげ。
「ええと…、惣流さん?」
「アスカで良いわよ。アンタもヒカリでOK?」
「ええ、いいわ。あの…,アスカ?」
「うん」
「あのクラス、ホントはあんなのじゃなかったの。 鈴原って男子がいるんだけど、彼が怪我でもう2ヶ月入院してるの。 それまでローレンツは鈴原が睨みを効かしてたせいでおとなしかったのに…」
「虎がいなくなって,狐が威張り出したのね」
私の発言にヒカリが笑い出した。
「虎?虎ねえ。鈴原が虎か。まあ、関西人だから虎もいいかも…」
う〜ん、今ひとつどこがヒットしたのかわからないわ。
でもまあ、雰囲気は明るくなったわね。
「アスカって本当は気が強いんでしょ?」
「うん…。ちょっとだけね」
私は少し謙遜した。
「どこがちょっとなんだか。先生をあんなに挑発しちゃって…」
笑いながら言うヒカリに,私はペロリと舌を出したわ。
「それにもうローレンツは気にしなくていいわ。後1週間くらいで、彼ドイツへ戻るから」
「あ、そうなの?へえ、アイツもドイツだったんだ」
「そう、だからアスカに絡んだのよ。自分が行きたくないものだから」
「どうして?」
「秘密にしてよ…。彼,ドイツ語駄目なのよ。それに英語も全然…」
今度は私が腹を抱えてしまった。
いや、本当は復讐してやろうと思ってたんだけど、もういいわ。
あっちで散々絞られたらいいのよ。
ああ、おかしい。もういいわ。許したげる。
この惣流・アスカ・ラングレーは寛大なのよ。
明るい顔で教室へ戻ってきた私に、ローレンツたちは怪訝な顔をしたわ。
落ち込んでると思ってたみたい。
そしてベルが鳴って先生が入ってきたとき、隣りのアイツが手を動かした。
何?
アイツは私の教科書を取って、代わりに自分の教科書を置いたの。
へ?
「さ、教科書開いて。45ページ」
今度は20代の女教師が明るく言った。
私はさっきのことがあるから、アイツのしたことを尋ねるより先に、 私の手元にあるアイツの教科書を開いたの。
えっと、45ページ…。
そのページを開いたとき、私は思わず涙がこぼれそうになったわ。
だって、文章の漢字にルビがふってあったんだもの…。
急いで書いたのか、ちょっと読みにくかったけど…、物凄く嬉しかった。
アイツを見ちゃうと泣いてしまうかもしれないから…、
私は教科書を見つめたまま小さな声で言った。
「ありがと…」
アイツは何も答えなかった。
冴えないヤツだと思ったけど、私のミスね。
いいヤツじゃない。
ちょっと暗そうだけど…。
ま、いいか。
友達くらいにはなってあげるわ、光栄に思いなさいね。
そう心の中で言いながら、
はぁ…私ってどうしてこんなに天邪鬼なんだろって、 ほんのちょっとだけ思ったわ。
Act.1 帰国子女の憂鬱 ―終―
<あとがき、という名の謝罪>
こんにちは、ジュンという老齢のビギナー作家です。
HTMLに慣れてなかったので、初回投稿の連作では、読者様及びターム様に多大な迷惑をおかけしてしまいました。
今回のこのシリーズはしばらく続ける予定です。もしお読みいただいているのなら、最後までお付き合いくださいませ。
と、こうすることで最後まで書きつづけないといけないように自分を追い込んでます。